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モジュール研究

令和6年能登半島地震による透析生活の影響に関する調査

  • 社会領域

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研究の背景と目的

令和6年1月1日、石川県能登半島で深さ16キロを震源とするマグニチュード7.6の地震が発生し、志賀町で震度7の非常に激しい揺れを観測した。これは1995年の兵庫県南部地震 (阪神・淡路大震災) を超えるマグニチュードを記録し、この地震で石川県内では七尾市、輪島市、珠洲市、穴水町、中能登町、能登町に甚大な被害をもたらした。もちろん透析を行える医療機関にも影響があり、停電、断水、ガスの使用不可、透析液供給装置使用不可、末端装置使用不可、個人装置使用不可、水処理装置使用不可の状況となった。このことから、七尾市2施設、輪島市1施設、珠洲市1施設、穴水町1施設、能登町1施設が透析不能状態となり、約220名の患者が透析難民となった。その後、珠洲からは空路、輪島市および穴水市の患者はバスで移動が叶い、金沢市内をはじめ野々市市、加賀市など県内23の透析機関へ患者を振り分け、支援透析を実施する運びとなった。患者の中には、重症度が高く、高齢でADLの自立が困難な患者もおり、家族と離れ入院生活を余儀なくされるケースもあった。また、支援透析近辺での宿泊施設が確保できない理由などにより被災地から金沢市内へ通って透析を受ける患者や二次避難所より通院をする患者など支援は受けられるが、通院手段や日常生活の大きな変化に伴い、平時のような安全に安定した透析治療や生活を送ることが厳しい状態である。
(一社)日本透析医学会の2024年1月末の危機管理委員会の情報によると、珠洲市、能登町、輪島市、穴水市の4病院については全く復旧の目処は立っていない状況である。このことから、この市町を居住とする患者約100名は故郷を後にし、遠い金沢市内をはじめとした地域で出口が見えない状況の中、支援透析を継続することとなる。この二次避難に対する弊害は大きく6つあり、①前述に示す医療アクセスの困難さにより透析治療の継続が難しくなること、②医療情報の断絶により患者の適切な医療提供が困難になること、③連続した避難は患者とその家族に精神的な負担を与え、不安やストレスが増加する可能性がある、④地域社会との結びつきが喪失し、社会的孤立感を引き起こすこと、⑤生活様式が変化することにより透析患者の生活様式に大きな影響を与え、治療計画の実施が難しくなること、⑥連続した避難により避難に伴う交通費や宿泊費、治療にかかる費用が発生することとなる。
発災から1ヶ月経過し災害急性期を脱し、生活機能の復旧と維持のフェーズに入ってきた。しかし、前述に示すように生命維持のために透析を必要とした患者は医療機関の復興の目処が経たない地元被災地を離れ、出口の見えない長期的な支援透析を受けることとなる。現在までの研究では、透析患者の一次避難についての報告は多く、発災時の対応などはある程度周知されてきている。しかし、透析患者の二次避難や長期的避難に関する生活や透析治療に関する影響は調査されていない。
本研究では、令和6年能登半島地震により被災した透析患者の長期避難生活の実態を調査し、適切な支援の方法を検討するための資料を構築する。

研究の意義

本研究を行うことにより以下の4つの意義がある。
① 治療の継続確保:二次避難の際、適切な透析施設や医療スタッフへのアクセスを確保することで、治療の継続が可能となる。本調査では患者の避難の方法や通院に対する手段を調査する。
② 適正な医療の継続・維持:患者が新たな医療機関で適切な治療を受けることを目的に、支援透析先での透析治療の実態を調査する。このことは安全な医療の手協へと導く。
③ 心理的な安心感の提供:二次避難における患者の精神的負担について調査をする。このことにより、適切な医療機関でのケアにつなぐことができ、長期避難による精神的合併症の予防へとつなげる。
④ 社会的つながりの維持:長期避難における人間関係やコミュニティの状況を把握する。このことにより、社会的な孤立感を軽減し、患者の精神的な健康をサポートする。
⑤ 災害対応体制の構築:長期避難患者の避難生活や治療の状況を把握し、適切な医療リソースの確保や情報共有の改善へとつながる。
⑥ 経済的支援:二次避難に伴う費用(交通費、宿泊費など)の状況を把握し患者が適正な支援を受けること、経済的な負担が軽減され、患者が適切な医療を受けることへとつながる。

研究関連画像(※タップで拡大画像を表示できます)

  • 研究代表者 髙橋 純⼦(元医療保健学部・医療技術学科・教授)
  • 研究分担者 藤井 義也(医療保健学部・医療技術学科・助教)
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