近年、日本の要支援・要介護者の数は年々増加しています。介護が必要となった主な原因の中には、運動器障害に関連する関節疾患、骨折・転倒、衰弱が含まれており、これらは全体の1/3以上を占めています。運動器障害は、身体的フレイルと密接に関わるだけでなく、運動器障害に伴う認知機能の低下や社会的な活動の制限も余儀なくされることから、精神的フレイル・社会的フレイルとも関連します。そこで、高齢者に一般的な運動器障害である「変形性関節症」と「サルコペニア」に注目し、それらの予防・改善効果を有するフラバノンを創出する研究を行っています。
変形性関節症は高齢者に好発する慢性の関節疾患です。痛みを発生させるだけでなく、関節機能の低下をもたらし、QOL低下の大きな要因となっています。現在、その薬物療法は、主に痛みなどの症状を改善するものしかなく、病態の進行を抑えたり、再発を防止したりする治療薬(疾患修飾性変形性関節症治療薬)は臨床応用されていません。
疾患修飾性変形性関節症治療薬は、関節軟骨の修復促進、軟骨の分解を抑制して正常な軟骨構造を再建することによって関節機能を復元する作用を持ちます。軟骨細胞は軟骨の構成成分である軟骨基質を合成・分泌することで軟骨の形成と維持を担いますが、私たちはフラバノンの一つである「リクイリチゲニン」が軟骨細胞に作用し、軟骨基質の形成を増加させることを新たに見出しました。これは、リクイリチゲニンが疾患修飾性変形性関節症治療薬となる可能性があるということです。
また、「サルコペニア」は、転倒、歩行速度低下、活動度低下によるQOLの低下を伴います。その治療薬は未だ存在せず、症状の改善には生活習慣の見直しと効果的な栄養補給、運動が有効とされていますが、私たちは、フラバノンの一つが筋肉の融合を促進することを新たに見出しており、これがサルコペニアの改善に有効であると考えています。改善法や予防法が十分に確立されていない運動器障害において、フラバノンもしくはフラバノンを含む天然物の運動器障害に対する有効性を立証し、有効な予防法の確立に貢献できればと考えています。
私が考えるウェルビーイングな社会
前提として自身の健康(心身の健康、経済的な安定、快適な環境、幸福感・満足感)があり、個人の健康が維持できる社会。健康を増進するための医療の発展、予防医療の推進、セルフケアのための支援・情報提供などに取り組むことができる社会。